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画家・堀越千秋
『怒るが負け!』
イラスト
第1回「JRの人種差別」

画家・堀越千秋『怒るが負け!』存分に怒ってくださいとの、編集部からのご要望である。しかし私のモットーは「怒らない」であり「短い人生怒ると損」である。
たとえば、雨あがりの夕方、国電(何がJRだ。国鉄の赤字をチャラにするために解体して、なるべくしらばっくれるためにローマ字なんぞを当てはめたのである。あれ?もう怒っている)の窓から富士山のシルエットがくっきりと眺められたなら、たとえ隣に立ったおやじに足を踏まれたからといって、いつまでも怒っていれば、せっかくの数年に一度の美しい黒富士はたちまち過ぎ去ってしまう。
こんなことでは、この世における数少ない美しい瞬間を見るかわりに、いつでもそのへんにある道の糞みたいなつまらぬ小怒りだけが残ってしまうではないか。

私は日本の仕事場を埼玉県の山奥に持っている(借りている)のだが、「自然大好き!」と言ってやってきたお嬢さんが「虫だらけで嫌だ!あッ虫!あッ虫!」と叫んでいた。嫌いな虫でも見なけりゃわからんものを。彼女は虫のせいで美しい新緑が目に入らないのである。損だ。
嫌いなものは見ないがよろしい。
とはいえ、日本国を歩いていて、虫より目に付くのはJRだ。やむをえない。人生は旅だ。乗らぬわけにはいかない。

国鉄の頃は総裁と言った。今は社長か。人間的うつわの小さい人物が、西も東も、どこかおどおどちまちましながらも、実は強大な権力でのさばっている感じがして、私はJRが大嫌いだ。
文句はいくつもあるが、とりあえずひとつを書く。

私はスペインに長く住んでいるので、日本に来る時には、ジャパン・レイルパスというのをよく買う。ユーレイルパスの逆バージョンだ。
外国人ないし海外永住者が外国で買い、日本のJRに乗れるパスである。新幹線にも乗れるのだが、何故か「のぞみ」には乗れない。
以前は「のぞみ」は高かったので、致し方なかったが、今は「のぞみ」も「ひかり」自由席は同じ値段だ。なのに乗れない。以前の制度のままなのだ。

これが実は人種差別になる、という意識を、日本人もJRも持っていない。外国人(と海外永住者)ゆえの割引パスなのだが、値段が同じのぞみに乗れないというのは、外国人ゆえの差別になるのである。
ユーレイルパスにこんな差別はない。
仮に貴方(日本人)がユーレイルパスを持ってヨーロッパに行き、値段が同じなのに「この列車に日本人は乗れません」と言われたら、貴方は差別を感じるでしょう?

日本人は身内意識が強いために、グループ外の人間や外国人の苦しみに実に鈍感である。
「事故機には日本人は乗っていないもようです」というやつだ。
私はJRの窓口でいつもこの差別問題に苦言を呈している。係員はむしろ同情してくれるのだが、鈍感なJR幹部は「のぞみ」の喫煙車(こんなものいらない!)にのさばっているのであろう、一向に改善されないのである。

 

 


作者プロフィール
名前: 堀越千秋(ほりこしちあき)
職業: 画家
1948年東京生まれ。画家、エッセイスト、陶芸家、カンテの唄い手。東京芸術大学大学院油画科専攻修了。
1976年スペイン政府給費留学生として渡西後、スペイン・マドリッド在住。
画集「マイトレーヤの散歩」」(架空社)、著書に「スペインうやむや日記」「アンダルシアは眠らない」「スペイン七千夜一夜」(集英社文庫)「ドンキホーテ・デ・千秋」(木楽舎)がある。
「武満徹全集」(小学館)装画・経済産業大臣賞受賞。
フジロックフェスティバル・ダンス白州、出演。

 

 

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